「一度も会ったことのない海外在住者と、共同名義で高額な土地を購入したい」――。
買主様からこのような申し出を受けた際、仲介担当者として「本当にこのまま進めてよいのだろうか」と強い不安を抱く場面は少なくありません。
私生活に過度に立ち入りたくないという心理から、安易にパスポート画像だけで確認を済ませてしまうのは極めて危険です。十分な裏付けのないまま契約を急げば、決済不能による深刻なトラブルを招き、仲介会社としてのリスク管理能力が問われることになりかねません。
本記事では、実際に寄せられた相談事例をベースに、不動産法務に強い弁護士が、海外在住者との取引で守るべき本人確認・資金確認の原則と、実務的な防衛策を詳しく解説します。
相談事例
Q: SNSで知り合い、一度も対面したことのない海外在住者が、共同買主として高額な土地の購入代金の大半を負担する予定です。本人確認や資金確認が十分でないまま、契約を進めてもよいでしょうか。
A: 詐欺と断定することはできませんが、本人の実在、購入意思、資金の裏付けを直接確認できるまでは、契約を急ぐべきではありません。
相談背景
買主側の仲介会社が、1億円を超える土地売買を進めていました。購入希望者の女性は、SNSで約1か月前に知り合った海外在住の男性と将来結婚し、日本で暮らす予定だとして、土地を共同名義で購入したいと希望しています。二人は毎日オンラインで連絡を取っているものの、まだ一度も対面していないそうです。
手付金は女性が支払い、残代金の大半は男性が海外から送金する予定ですが、来日時期や送金方法は確定しておらず、資金を示す資料も提出されていません。
仲介会社として、依頼者の私生活に過度に立ち入らず、どこまで本人確認や資金確認を行うべきかが問題となりました。
弁護士の回答
1.本人確認ができるまでは契約を急がない
この事例で最初に確認すべきなのは、二人の交際関係が本物かどうかではありません。
共同買主となる男性が実在し、本人が対象土地、売買価格、共有持分、支払条件を理解したうえで、購入を希望しているかです。
宅地建物取引業者は、不動産売買の媒介に際し、個人顧客について氏名、住居、生年月日、取引目的、職業などの「取引時確認」を行う義務があります。確認記録と取引記録は、原則として7年間保存しなければなりません。
海外在住者や非対面取引であっても、この確認が不要になるわけではありません。国土交通省も、非対面での本人確認は可能としつつ、契約当事者本人であることを確認できる措置を求めています。
2.パスポートの画像だけで確認を終えない
海外在住の外国人については、パスポートや外国政府が発行した公的書類を本人確認に利用できます。
もっとも、メール等で送られてきたパスポート画像を見ただけで、法令上の本人確認が完了するとは限りません。本人特定事項には住居も含まれるため、パスポートに住所の記載がなければ、現住所を確認できる公的資料などが別途必要になります。
実務では、仲介担当者だけで判断せず、登記を担当する司法書士と早い段階で確認方法を協議するべきです。そのうえで、本人とのオンライン面談を設定し、画面上で顔と身分証を照合するだけでなく、氏名、生年月日、住所、職業、購入目的を本人から直接聴取します。
さらに、対象物件の所在地、価格、持分割合、手付金額、残代金の支払日などを、本人自身に説明してもらう方法も有効です。単に書類上の本人確認をするだけでなく、「この人物が本当に取引を理解し、参加しているか」を確認する必要があります。
3.資金確認は本人確認とは別に行う
本人確認書類が整ったとしても、それだけで残代金を支払えることが確認できたわけではありません。本件では、女性が手付金を負担し、海外在住者が残代金の大半を支払う予定です。したがって、誰の資金を、どの口座から、いつ、どのような経路で送金するのかを契約前に具体化する必要があります。
確認資料としては、本人名義口座の残高証明書、金融機関名と口座名義が分かる資料、資金の形成経緯を説明する資料、海外送金の予定表などが考えられます。
国土交通省のガイドラインも、リスクが高いと判断した顧客については、資産・収入、取引目的、職業・地位、資金の出所に関する追加情報を取得するなど、厳格な顧客管理を行うよう求めています。
もっとも、すべての不動産取引で一律に残高証明書等の取得が法律上義務付けられているわけではありません。海外在住、高額取引、非対面、代金負担者と国内の依頼者との関係性などを踏まえた、リスク管理上の追加確認と位置付けるべきです。
特に、買主本人とは異なる第三者名義の口座から送金される、資金の所有者について説明が変わる、資料の提出を拒むといった事情があれば、取引を止めて再確認する必要があります。
4.確認できない場合は「契約しない」判断も必要
必要な情報が得られない場合、仲介会社には、取引を進めないという選択肢があります。国土交通省のガイドラインも、必要な情報が得られず、適切な顧客管理を実施できない顧客や取引については、取引を承認しないことを含め、リスクを遮断するよう検討すべきとしています。
確認不足のまま女性が契約し、男性から残代金が送金されなければ、買主側の資金準備ができないまま決済日を迎えることになります。海外送金が間に合わなかったという事情だけで、当然に契約から離脱できるわけではありません。手付金の放棄や違約金請求に発展すれば、仲介会社も「なぜ資金の裏付けを確認せず、契約を進めたのか」と問われかねません。
そのため、本人確認と資金資料が揃うまでは契約を急がず、売主側にも確認中であることを説明するのが安全です。契約に進む場合も、海外送金に要する期間を見込み、決済日、送金元口座、着金確認の方法を事前に合意しておく必要があります。
なお、本人性に強い疑いがある場合や、代金が犯罪収益である可能性を疑う事情がある場合には、疑わしい取引の届出についても社内で検討しなければなりません。
5.まとめ
海外在住者との共同購入で重要なのは、相手を詐欺師と決めつけることではなく、通常の取引確認を一段慎重に行うことです。
仲介会社は、①公的資料による本人確認、②本人との直接面談による購入意思の確認、③資金の存在と送金経路の確認を順番に進めます。
この三点を確認できないまま契約を成立させると、最終的な損失が国内の買主だけに集中するおそれがあります。確認資料が揃わない場合は、契約を見送ることも正当なリスク管理です。
弁護士の実務コメント
「一度も会ったことのない海外在住者」との不動産購入と聞くと、詐欺ではないかとの先入観を持ってしまうかもしれません。
しかし、仲介会社が購入希望者の恋愛関係を根拠なく疑い、詐欺と決めつけるような対応は適切ではありません。あくまで取引の安全を確保する観点から、必要な本人確認、購入意思の確認、資金確認を客観的かつ丁寧に進めることが重要だと言えるでしょう。

山村 暢彦氏
弁護士法人 山村法律事務所
代表弁護士
実家の不動産・相続トラブルをきっかけに弁護士を志し、現在も不動産法務に注力する。日々業務に励む中で「法律トラブルは、悪くなっても気づかない」という想いが強くなり、昨今では、FMラジオ出演、セミナー講師等にも力を入れ、不動産・相続トラブルを減らすため、情報発信も積極的に行っている。
数年前より「不動産に強い」との評判から、「不動産相続」業務が急増している。税理士・司法書士等の他士業や不動産会社から、複雑な相続業務の依頼が多い。遺産分割調停・審判に加え、遺言書無効確認訴訟、遺産確認の訴え、財産使い込みの不当利得返還請求訴訟など、相続関連の特殊訴訟の対応件数も豊富。
相続開始直後や、事前の相続対策の相談も増えており、「できる限り揉めずに、早期に解決する」ことを信条とする。また、相続税に強い税理士、民事信託に強い司法書士、裁判所鑑定をこなす不動産鑑定士等の専門家とも連携し、弁護士の枠内だけにとどまらない解決策、予防策を提案できる。
クライアントからは「相談しやすい」「いい意味で、弁護士らしくない」とのコメントが多い。不動産・相続関連のトラブルについて、解決策を自分ごとのように提案できることが何よりの喜び。
現在は、弁護士法人化し、所属弁護士数が3名となり、事務所総数7名体制。不動産・建設・相続・事業承継と分野ごとに専門担当弁護士を育成し、より不動産・相続関連分野の特化型事務所へ。
2020年4月の独立開業後、1年で法人化、2年で弁護士数3名へと、その成長速度から、関連士業へと向けた士業事務所経営セミナーなどの対応経験もあり。
弁護士法人 山村法律事務所
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神奈川県弁護士会 所属
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